目次
甲州とは
日本ワインのブドウ品種として知られるブドウの「甲州」
日本人にとって馴染み深いブドウです。
山梨県で発見された「甲州」は、800年以上前から生息していたと言われています。
甲州ブドウの発祥には2つの説があります。
① 1186年に甲州の産地、勝沼で雨宮勘解由(かげゆ)という人が発見し、それを植えたところ、5年後に実が付いたという説
②奈良時代、僧が発見したという説です。
①の勝沼で雨宮勘解由が発見説が有力ですがはっきりとしていません。しかし、甲州には長い歴史があるという事は分かっています。
主に山梨県で栽培が行われていて、9月中旬~10月中旬頃、収穫時期になります。
生食用とワイン醸造用
「甲州」はワイン用ブドウだけではなく、生食用としても人気で、収穫シーズンの9月中旬~10月中旬頃は山梨県のスーパーの果物売り場で多く見かけます。2房で500円程度で販売されています。
甲州の色は、薄い紫から赤褐色で、「灰色」と呼ばれるグリブドウになります。
果皮は少し厚みがあり、種もあり、皮は食べられません。
ブドウの味はみずみずしくジューシーで甘みと酸味のバランスがよく、美味しいブドウです。
甲州ワインをテイスティング
甲州は、日本固有のグリ系ブドウ品種です。
香りは控えめでニュートラルですが、スパイスのシトラスや丁子(クローヴ)のような香りがします。最近は、すっきりとした白ワインというだけではなく、甲州特有のコクや醸造技術の向上と共に、複雑味がある甲州ワインが増えています。
下の画像は、日本ソムリエ協会のソムリエ・ワインエキスパート「甲州」の模範解答シートです。黄色の線でチェックしてあるコメントをつなげると、甲州の香りの表現が完成します。受験生は甲州は必ず覚えなくてはならない品種の一つです。数年に一度、出題されている品種ですので、いつまた出題されるかというところです。
受験以外では、このシートに自分のオリジナルのコメントを加えてオリジナルコメントを作ってみてください。
甲州の香り
甲州は爽やかな柑橘系の香りで、どちらかと言えば、香りは控えめなワインです。どんな風に例えると相手に伝わるか、コメントを覚えましょう。
柑橘 | レモン |
ライム・スダチ | |
オレンジ | |
果物 | 白桃 |
焼きリンゴ・リンゴのコンポート | |
花 | アカシア |
バラ | |
アルコール | 日本酒 |
吟醸香 | |
その他 | イースト |
石灰・貝殻 |
甲州を悩ませた負の歴史
甲州は香りが控えめで、特徴と言えばチャーミングな酸味でした。これだけでは、世界のシャルドネや、リースリング、ソービニョンブランなどの三大白ワインを差し置いて、消費者に選んでもらうことは難しいワインでした。
しかし、日本の大手ワイナリーと、財務省の管轄である、酒の研究機関「酒類総合研究所」で「甲州ブドウ」の研究が行われました。
「香りがない」「個性がない」など平凡なブドウ品種から甲州を脱却させようと試行錯誤と研究の末、①シュール・リー製法、②収穫期を早める、③果皮と一緒に発酵させるという醸造方法を見つけました。
実は、世界のシャルドネも酸味が強いだけの品種と思われていた古い時代もありましたが、酸味を和らげる乳酸発酵(マロラクティック発酵)や樽熟成で樽の香りをつけるなど、ブドウのお化粧と言われる醸造技術の開発で、世界的に有名な品種へと改新しました。
✔マロラクティック発酵について詳しくはこちらを参照してください
ワインのテイスティングコメント 表現 ⑤乳製品・発酵・薬品編
甲州ワインの新しい醸造技術
甲州はソービニョンブランと同じ柑橘系の香りである、3-メルカプトヘキサノール(3MH)が含まれていることが研究によって解明されました。
3MHは、グレープフルーツ、パッションフルーツのようなアロマとして知られており、「ソーヴィニヨン・ブラン」の爽やかな香気成分と同じだったのです。
✔ ソービニョンブラン、3MHについて詳しくはこちらを参考にしてください
ソーヴィニョン・ブランを解説・香りを覚えましょう
しかし、甲州ブドウに3MHの香りが含まれているのに、なぜ甲州ワインは香りが控えめ、個性がないと言われていたのか。
分析によって、その謎も明らかになりました。
分析により、甲州ワインには爽やかな柑橘系の香りが含めれていることが分かりました。しかし同時に薬品臭、フェノール臭と呼ばれる不快なにおい物質である、揮発性フェノール化合物の、4-ヴィニルフェノール(4VP)、4-ヴィニルグアイヤコール(4VG)が検出されてしまいました。
特に、不快なにおい物質の4-ヴィニルフェノールは濃度が高く確認され、甲州ワインが持っている「良いアロマ」をマスキングし、消してしまっていた事が判明しました。
つまり、不快なにおい物質であるオフフレーバーである、4-ヴィニルフェノール(4VP)を抑えれば、柑橘系の香り3-メルカプトヘキサノール(3MH)が香る、華やかな甲州ワインが誕生することが分かったのです。
研究って、素晴らしいですよね。
先ずはブドウ由来に出現する、4-ヴィニルフェノール(4VP)、4-ヴィニルグアイヤコール(4VG)は、収穫期が遅い甲州ブドウから増加することが分かりました。
甲州の収穫時期は、ブドウが成熟し、収穫する時期は他品種よりも遅かったのです。しかし、早めに収穫することで、オフフレーバーがでない甲州に近付いていきます。
収穫時期が遅い甲州ブドウからつくられたワインは、4VP、4VGの生産量が増加することも判明したのです。
一般的に、従来の甲州ブドウの収穫時期は10月中旬と比較的遅く、これがフェノール臭を増やしていたひとつの要因であると考慮され、収穫時期の見直しも行われました。
もう一つは、脱炭素酵素の活性の低い酵母を使用することでオフフレーバーが減少することもわかりました。
甲州ワインのスター誕生
甲州ブドウを改良、醸造の試行錯誤を繰り返したメルシャンは「甲州」を使用し大ヒットしたワインを発売できるまでにたどり着きました。
メルシャンの研究チームは3MHを引き出すため、収穫時期や酵母の改良など、さまざまな実験や研究を行います。そして発売されたのは、
「甲州きろ香」です。
このワインは、まさにグレープフルーツの香りで、フレッシュな酸味と余韻にはレモンのフレーバーが香ります。メルシャンの研究結果がこのブドウの美味しさを引き出したと言っては過言ではありません。ワイン漫画でも取り上げられて大ヒットを収めました。
ワイン好きなら経験上、一度は飲んでみなければならない、日本代表の一本です。
甲州の醸造方法
研究の末、甲州の美味しさを引き出した、甲州特有の醸造方法が2通りあります。甲州は樽熟成することはほとんどありませんが、下記の醸造方法を行うことで、個性があるワインになります。
① シュール・リー
発酵終了後もそのまま、ワインと澱を接触させる方法で、ワインに厚みをもたらせて、コクを与える方法です。甲州ワインに最も行われている方法です。澱とワインが接触している時間が長いため、酵母由来の「パンのイースト」のような香りがすると言われています。これが、パン・ドゥ・ミというワインの表現方法です。パン・ドゥ・ミはパンの耳ではなく、白い部分です。
② スキンコンタクト
赤ワインのような造りで、果皮と一緒に発酵させる方法です。焼きリンゴのような香りが現れて、ワインに複雑味がでます。
おすすめの甲州ワイン
甲州ワインについて、詳しくなりましたね!個性ある、甲州ワインのおすすめをご紹介します。日本産のワインを是非試してみてください。
シャトー ルミエール スパークリング 甲州
瓶内二次発酵後1年間瓶内熟成させた辛口スパークリングワイン。キメの細かい泡立ちで、甲州ブドウが持つ清涼感のある風味と瓶内二次発酵由来のきめ細やかな泡が特徴のスパークリングワイン。見事にパン・ドゥ・ミを感じます。カボスやユズのような日本産の柑橘類の香りが特徴です。
中央葡萄酒 グレイス グリド甲州
中央葡萄酒は、日本ワイン発祥の地、山梨県勝沼町にあります。現在は「甲州」を中心に醸造を行っているワイナリーです。
香りはグレープフルーツ、レモンの柑橘系の香りが見事に感じます。味わいは酸味のバランスもよくシャープで繊細です。甲州の立役者的造り手です。天ぷらや、白身魚の刺身など、柑橘を絞って食べたら美味しそうなものに良く合います。
甲州シュール・リー
甲州の特徴が顕著に出ているコストパフォーマンスが高い甲州ワイン。秋に仕込んだワインを、春まで澱引きしないシュール・リー製法で造られたコクや深みを感じるワインです。レモンやグレープフルーツのフレッシュさがありながら、酵母由来のパン・ドゥ・ミを感じます。食事に合わせやすいのでテーブルワインとして活躍します。
まとめ
甲州ワインいかがでしたでしょうか。昔は、穏やかで個性がない甲州と言われた品種でしたが、日本の研究者たちによって、現在は甲州ブドウの個性と良さを最大限に引き出された「甲州ワイン」が誕生しました。柑橘系のさわやかでフレッシュな酸味のワインは日本の食卓にピッタリ。ビストロや飲食店にオンリストされていたら、ワインに詳しいお店間違いなしです。是非、造り手違いの甲州を楽しんでください。
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