ワインの製法による味わいや香りの違い、
そしてソムリエ目線からのテイスティングコメントを交えながら解説していきます。
ワインはブドウの品種や栽培環境だけでなく、
製造プロセスにおけるさまざまな工程が味わいを大きく左右します。
奥深いワインの世界を、ぜひ理解を深めながらお楽しみください。
目次
1. 製法の違いが生み出すワインの個性
1-1. 発酵容器(ステンレスタンク/オーク樽など)の違い
- ステンレスタンク発酵・熟成
ステンレスは酸素をほとんど通さないため、
フレッシュでフルーティーな香りを保ちやすいのが特徴です。
ブドウそのものの果実味がストレートに表れる傾向があります。
白ワインのシャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、
ロゼワインなどでよく採用され、
爽やかな酸味と軽快な口当たりを生むことが多いです。 - オーク樽発酵・熟成
オーク樽は微量ながら酸素を通すため、
ワインのタンニンがまろやかになり、
樽由来の香り(バニラ、ナッツ、スパイスなど)が加わるのが特徴です。
赤ワインでの使用が一般的ですが、
高級白ワインでも樽発酵や樽熟成を行うことがあります。
熟成期間が長いほど、樽の風味や複雑味が強くなります。
ソムリエのコメント
「ステンレスタンクの白ワインは、
グレープフルーツや青リンゴのような果実の香りが活き活きとして、
口当たりもクリスプ(シャキッとした)な仕上がりです。
オーク樽で熟成させたワインは、口に含むとバターのような
リッチさやバニラの甘やかさが感じられ、余韻まで深みが続いていきます。」
1-2. マロラクティック発酵(MLF)の有無
- マロラクティック発酵とは?
乳酸発酵とも呼ばれ、ワイン中の硬いリンゴ酸をまろやかな乳酸に変える工程です。
酸味が緩和され、バターやクリームのような風味が加わるケースがあります。
赤ワインではほぼすべて実施されますが、
一部の白ワイン(特に樽熟成したシャルドネ)でも導入されることがあります。
ソムリエのコメント
「マロラクティック発酵を行ったシャルドネは、
クリーミーで柔らかな舌触りが特徴的です。
口の中で少しバターを溶かしたようなコクがあり、
酸味も尖りすぎず、バランスが良く感じられます。」
2. 赤ワインならではの製法
2-1. 醸し(マセラシオン)の長さ
赤ワインはブドウの皮や種とともに発酵させる
「醸し(マセラシオン)」の過程で、色素やタンニンを抽出します。
- 短期マセラシオン
色素やタンニンの抽出は少なめで、
フレッシュな果実味が前面に出やすく、早飲みタイプが多いです。
ピノ・ノワールやガメイなど、タンニンが比較的穏やかな品種の場合に好まれます。 - 長期マセラシオン
タンニンと色素がしっかり抽出されるため、
フルボディで力強いワインに仕上がります。
カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーなどは長期の醸しを行うことで複雑さが増し、
熟成ポテンシャルが高まります。
ソムリエのコメント
「短期マセラシオンの赤は、イチゴやラズベリーといった酸味のある赤い果実の
フレッシュな香りが楽しめます。長期マセラシオンでは、
ブラックチェリーやカシスの濃厚な果実味に加え、
チョコレートやスパイスのニュアンスも感じられ、飲みごたえのある仕上がりになります。」
2-2. カーボニック・マセラシオン(炭酸ガス浸漬法)
主にボジョレー・ヌーヴォーなどに使用される製法で、
ブドウを破砕せず房ごと炭酸ガス環境に置くことで、
果実そのものが発酵を始めます。タンニンが柔らかく、
フルーティーでキャンディのような香りが得られやすい点が特徴です。
早飲み向きのフレッシュな赤ワインができあがります。
ソムリエのコメント
「ボジョレー・ヌーヴォーのように
カーボニック・マセラシオンを採用したワインは、
熟成を待たずにすぐ飲んでもおいしい、
ジューシーで生き生きとした果実味が魅力です。
バナナや綿あめ、キャンディのような甘い香りも独特で、軽い口当たりが好まれます。」
3. 白ワイン・ロゼワインの独特なアプローチ
3-1. 白ワインにおけるシュール・リー(Sur Lie)
発酵終了後のワインを、酵母の澱(おり)と一緒に
一定期間熟成させる製法。
酵母由来の旨味成分やコクがワインに溶け込み、
香りや味わいに複雑さと深みを加えます。
フランス・ロワールのミュスカデや一部の日本ワインなどでよく見られます。
ソムリエのコメント
「シュール・リーを実施した白ワインは、
パンやブリオッシュのような香ばしさが立ち上り、
口に含むとよりクリーミーなテクスチャーが感じられます。
フレッシュな酸味とのバランスが絶妙で、香りが多層的になるのが特徴です。」
3-2. ロゼワインの製法(直接圧搾法・短期醸し・混醸法)
- 直接圧搾法
黒ブドウを使いつつ、皮との接触時間を極力短くして搾汁するため、
淡いピンク色に仕上がります。
フレッシュで軽やかな印象のロゼが多いです。 - 短期醸し(セニエ法)
赤ワインを仕込むときに、醸しの初期段階で一部の果汁を抜き取って
ロゼとして仕上げる手法。
やや濃いめの色としっかりした風味が出る傾向です。 - 混醸法
白ワインと赤ワインをブレンドして作る方法。
ただしEU圏内では原則禁止されており、
一部の国では許容される場合もあります。}
ソムリエのコメント
「直接圧搾法のロゼは、非常に淡い色合いで、
レモンのような爽やかな酸味や白桃の香りが特徴です。一方、セニエ法ではラズベリーやチェリーのような果実感が強調され、ロゼのイメージよりも力強い余韻が楽しめます。」
4. スパークリングワインの製法
4-1. 瓶内二次発酵(シャンパーニュ方式)
最も手間がかかる方法で、瓶内で二次発酵を行うため繊細な泡立ちと
深みのある風味が得られます。
シャンパーニュや一部のカヴァがこの製法。
長い熟成期間を経ることで、酵母由来の香ばしいアロマや複雑味が生まれます。
ソムリエのコメント
「瓶内二次発酵で仕立てたスパークリングは、
泡がクリーミーで、イーストやトーストのような複雑な香りを伴います。
飲み込んだあとも長い余韻が続き、お祝いの席を華やかに彩る存在感が魅力です。」
4-2. タンク方式(シャルマ方式)
大きな密閉タンク内で二次発酵させる方法。
短期間でフレッシュな泡を造れるため、
モスカート・ダスティやプロセッコなど、軽やかでフルーティーな味わいが特徴。
大量生産に向いており、比較的リーズナブルに手に入れやすいのも利点です。
ソムリエのコメント
「シャルマ方式で作られたプロセッコなどは、
りんごや洋ナシの甘くやわらかな香りを楽しめます。
フレッシュで果実味が前面に出るので、気軽なパーティーや日常のアペリティフにも最適です。」
5. 自然派・オレンジワインなど個性派の製法
5-1. ナチュラルワイン(自然派ワイン)
農薬や化学肥料を極力使わず、ブドウに付着している天然酵母で発酵させるのが特徴。
亜硫酸塩(SO2)も必要最低限に抑えているため、
味わいにばらつきがありつつも、よりテロワールを感じる個性的なワインが多いです。
酸化しやすいなどデリケートな面もあるため、保存には注意が必要。
ソムリエのコメント
「ナチュラルワインは、時に乳酸菌由来のヨーグルトのような酸味や、
雑味とも捉えられる独特の香りを感じる場合がありますが、
それも含めて“自然のまま”の魅力と言えます。
ハマる人はとことんハマるジャンルです。」
5-2. オレンジワイン(白ブドウを皮ごと醸す)
白ブドウをあえて赤ワインのように皮と一緒に発酵させることで、
オレンジ色やアンバー色に仕上がるワインです。
程よいタンニンと複雑味があり、
独特の渋みやスパイシーな香りを感じることが多いです。
ソムリエのコメント
「オレンジワインは、白ワインと赤ワインのいいとこ取りともいえる存在です。
口に含んだときのタンニンの渋みが白ワインとは全く違い、
紅茶のような香りやドライフルーツ系の甘みも漂います。
エスニック料理や発酵食品と相性が良いのが魅力ですね。」
6. 味わいを最大限に引き出すポイント
- 温度管理
- 白やスパークリングは低め(5~10℃程度)
- 赤はやや高め(14~18℃程度)
- オレンジワインは中間(10~14℃程度)もおすすめ
- 白やスパークリングは低め(5~10℃程度)
- グラス選び
- 赤ワインにはボウルの大きいグラスで香りをためる
- 白ワインやロゼにはやや小さめのグラスで酸をキュッと引き立てる
- スパークリングはフルート型やテイスティンググラスも選択肢
- 赤ワインにはボウルの大きいグラスで香りをためる
- 飲むタイミング
- 熟成が必要なタイプは、数年寝かせることでポテンシャルが開花
- 早飲みタイプは、新鮮な果実味が残っているうちに開けるのがベスト
- 熟成が必要なタイプは、数年寝かせることでポテンシャルが開花
まとめ
製法の違いは、ワインの色や香り、味わい、
さらには熟成ポテンシャルにまで大きく影響します。
ステンレスタンクかオーク樽か、マロラクティック発酵を行うかどうか、
白でも醸しをするか、炭酸ガス浸漬法をとるかなど、
細部の工程ひとつひとつがワインの個性を形作っています。
ソムリエのコメントにもあるように、
発酵・熟成の手法によって「果実味」が強調されたり、
「樽由来の甘い香り」や「クリーミーなテクスチャー」が加わったりといった
変化が生まれます。ぜひいろいろな製法のワインをテイスティングして、
自分の好みを見つけてみてください。
製法に注目して飲むことで、ワインの世界がさらに広がるはずです。